「ハイパーインフレーション」は最近話題に上がることが増えたのに「Thisコミュニケーション」が依然騒がれてなさすぎると思ったのでもう自分が書くしかないとなって筆をとっています。四コマが専門なのに...
(以下常体)
●簡単なあらすじ
謎の生物「イペリット」により人類絶滅寸前の世界。生き残った元軍人デルウハは食料を求め彷徨っていたところ極秘研究所にたどりつく。そこではイペリットに対抗するために造り出された不死身の少女達がいた。自らの食事を守るため彼女たちの指揮を執りイペリットにあらがっていく。
●キャラクター設定KEY POINT
・ハントレス
不死身だが、「死ぬと一時間前の状態で再生する」という特性を持つ(これには記憶も含まれる)。捨てられた子供たちという背景もあり他者からの承認欲求が強く功を急いて協調性ない戦闘を繰り返す。
・主人公デルウハ
徹底して合理性(≠論理性)のみを追求する最低な男。都合の悪いことが起きたら殺して記憶を消しながら彼女たちをまとめ上げていく。
この設定だけだとサイコサスペンス的な話しか想像できないだろうが、聞いて驚け実はコメディである。キャラクター達は必死に行動しているのに大体ディスコミュニケーションにより報われない。そのような様が傍から見ると面白おかしく見えてしまう。「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」と喜劇王チャプリンは言ったがまさにそれをとてつもなく巧い構成で実現しているのが本作だ。
最大のキーマンは主人公デルウハだ。よくある「ロジカルシンキング(ニチャァ)」キャラとは一線を画し、人間心理の機微も織り込んだ判断を下す。必要があれば、ハントレスが恋愛感情を抱くことを拒絶したり、女の子二人が百合してたら脳破壊して間に挟まることもする。決して作者がリョナシーン描きたいだけのために生まれた実質快楽殺人者ではない。虐殺していることがバレたら自分が殺されることも自覚しているし、リスクが大きいため基本殺人事件を起こすつもりはない。ただ三食食える生活をしたいだけなのだ。
これだけだとデルウハのせいでハントレスが狂わされている...だけに見えるのだが、彼もしょっちゅう運命の女神に翻弄される一人である。ハントレスがサプライズのつもりで偶然居合わせたタイミングで殺人の現場を見られたり、ハントレスを始末したタイミングでイペリットに襲撃されて一人で八時間防衛する羽目になったり。後者のシーンで痛み止めを打ち錯乱しながらの独白は笑い涙なしには見られない。
RTA走者が倫理ゼロの行動でクリアを目指すも、ファンブルしまくっている状態なのだ。本人は必死でもRTAを見る我々はつい笑ってしまう。
皆様が初め読んだときには「これ笑っていいのか?」となるかもしれない。しかし「皮肉に満ちた喜劇を書き続けたい」と作者も言及しており、笑ってしまうのはむしろ作者が意図したものなのだ。最新号では雑誌のアオリでも「机上より眺める惨劇〈コメディ〉」と言ってしまっている。正直この展開を計算づくで連載しているのはあまりに恐ろしい。本当に初連載?
無論決してコメディだから物語の中身がないというような作品でもない。群像劇的な作品でもあり、そこから世の中のディスコミュニケーションについて考えられるシーンはある。エンターテイメントの中で出てくる笑いが優れておりストーリーやキャラクター心情について深く考えることもできる。テイスト的には古代や中世の喜劇を楽しむ感じだ。
皮肉とは「予期に反し、意地悪をされたような結果になること。」という意である。キャラクターは勿論読者から見ても予想に反した展開しか出てこない。常に我々の想定する最低の斜め下をいくのだ。基本この手の作品に対して相当厳しい目を向けるのだがこれは反し方が巧すぎる。一方で個々の登場人物がどう考えているのかの思考回路はすごく自然に入ってくるためイメージ自体はすっと入ってくる(納得できるとはいっていない)。何を言ってもネタバレになるので深くは話せないが、この読書体験を漫画で味わうことは到底できない唯一無二の作品だ。一巻から面白いが真骨頂は2巻以降。既刊8巻で来月(23年4月)に新刊が出るので追いつくには絶好のタイミング。 ぜひ読んで語り相手になってください。(切実)
[第1話]Thisコミュニケーション - 六内円栄 | 少年ジャンプ+